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第16回水炊き雑学講座

皆さんこんにちは!

金色、更新担当の中西です。

 

 

さて今回は

~こだわり~

 

1|哲学:味付けより“素材の輪郭”

水炊きは、塩と柑橘、時に自家製ポン酢——調味は極めて最小限。
だからこそ主役の“鶏”が持つ 香り・コク・余韻 が、そのまま椀の中に現れます。私たちの仕事は、味を“足す”のではなく、潜んでいる旨みを邪魔しないこと


2|鶏選び:品種 × 育ち × 仕上げの三位一体

  • 品種と月齢
    若鶏の柔らかさと、*親鶏(ひね)*の深いコク。それぞれの長所を料理で使い分けます。
    例)出汁は親鶏ガラで骨太に身は若鶏でしっとり。鍋の中で役割分担させる設計です。

  • 餌と環境
    脂の質=後味に直結。穀物主体で香りが澄むもの、ハーブ飼料で脂が軽くなるものなど、飼料設計が“後味”を決めると考えています。

  • 締め方と冷却
    放血の丁寧さは雑味、急速冷却はドリップの少なさに比例。解体〜冷却の管理がスープ濁りのカギになります。


3|捌きと熟成:24時間の“待つ力”

  • 枝肉の休ませ
    解体直後は筋が張るため、0〜2℃で一晩。水分と旨みを内部に戻し、繊維のギスギスを取ります。

  • 部位ごとの下ごしらえ
    胸は低温火入れ用に整形、モモは繊維に沿って余剰筋を処理。骨はあらい湯で血と脂を抜き、香りを澄ませる——ここを怠るとスープが重くなります。


4|スープの芯:白濁と清湯、二枚看板の理由

  • 白濁(パイタン):骨と皮のコラーゲン・脂・可溶性たんぱくを対流で乳化。力強い旨みと粘度で、口当たりに“厚み”を。

  • 清湯(チンタン):弱火で香りを逃さず引き出す。余分な脂・灰汁をこまめに掃除して、雑味のない透明感を追求。
    → 当店は 清湯でスタート→途中で白濁を合わせる“二段仕立て”。前半は滋味、後半は力強さ。鍋の中で味が“育つ”設計です。


5|部位の設計:一杯の中に多層の旨み

  • ガラ:背ガラで骨格の出汁、モミジでゼラチンの“のり”、手羽元で香りの芯。

  • :モモ=ジューシー、胸=品の良い甘み、ササミ=繊維のほどけ。

  • つくね:ミンチに刻み軟骨皮目の脂をブレンド。スープの中で旨みを“放出する部位”として機能させます。

  • 内臓:新鮮な肝・ハツを“ごく短時間”泳がせ、香りを移してから別皿へ。香りはスープへ、身は刺さず最後に


6|塩と水:控えめで、要。

  • :立ち上がりは鉱塩の角で輪郭を作り、仕上げは海塩の甘みで丸める。塩は味を“足す”のではなく、鶏の甘みを前に出すスイッチ

  • :硬度は旨みの抽出速度に影響。中軟水を基準に、季節でスープの滞空感を微調整します。


7|衛生とトレーサビリティ:美味しさ=安心の上に成り立つ

  • コールドチェーン:受け取り→分割→仕込みまで10℃以下の冷蔵導線を徹底。

  • 交差汚染ゼロ:生と加熱済みの動線・器具・保管を完全分離。色分けまな板・包丁は厨房の“信号機”。

  • 記録:温度ログ、ロット、調理工程を日々記録。美味しさは“再現できること”で担保されます。


8|季節の微調整:変える勇気、変えない芯

  • :脂を軽く、清湯比率を高めて“するり”と。柑橘を強めに。

  • :皮やモミジを厚めに配分、粘度と保温性を優先。薬味は生姜ベースで体を温める。

  • 新物の時期:若鶏主体で軽快に、親鶏ガラは控えめにして香りを前へ。


9|“今日の一杯”ができるまで(24hタイムライン)

前日夕方:ガラ下処理→一番出汁(清湯)抽出→冷却
当日朝:白濁スープ炊き上げ→ブレンド比率決定→塩水調整
営業前:部位分け・つくね練り・薬味仕込み
営業中:鍋は清湯で提供開始→食べ進めながら白濁を追い足し→〆雑炊でコラーゲンを封じる


10|おうちで“こだわりの片鱗”を再現するコツ

  1. ガラを熱湯で短時間くぐらせて血と脂を落とす。

  2. 最初は弱火で清湯、途中から強めに対流させて白濁を少しだけ。

  3. 塩は最後に味が“整った瞬間”で止めるのがプロの勘。


まとめ:鍋の中に、鶏の物語を。

水炊きは、鶏の生い立ち、処理、熟成、部位設計、火の入れ方、塩と水——無数の小さな意思決定の積み重ねです。
“派手さ”はないけれど、椀から立つ湯気に鼻を近づけた瞬間、鶏の輪郭がくっきりと立ち上がる
その一口のために、今日も鶏に正直であり続けます。